看板に偽りアリ
2007/02/08(Thu)
田中眞澄 『小津安二郎のほうへ』 みすず書房  読了。

何年か前に買ったままになっていた本の1冊。  でも、看板に偽りアリだぞ。  副題の「モダニズム映画史論」が正しいタイトルだな。  もっともそのタイトルなら絶対買っていないけど。  私のような、とりあえず、「小津」とついてると買っちゃう粗忽な読者で売上を上げようとしおって。

みすず書房ともあろう版元が。


その中でも、私の心の琴線にふれてきたところ。
田坂具隆監督に、斥候から戻らぬ戦友を案じつつ待つ、名画『五人の斥候兵』があるが、田坂監督は、

応召した小津の壮行会の翌日、兵営に消えていく小津の後姿を見送りながら、 『五人の斥候兵』を作る決心をしとたいうのである。



この映画を、私は昨年、今はなき三百人劇場で見た。 戦争を批判するでなく、戦意高揚に資するでなく。  軍服を着た人間を描いた映画だった、と思う。  

また。
国民政府軍が作成した、「対敵士兵宣伝標語集」というおものがあったそうである。 国民政府軍の工作員が日本兵を説得し、連帯を呼びかけるための日本語テキストだそうである。  これを、小津さんは、まるごと、1冊、手帳に書き写していたのだそうだ。

一字一句を正確に書き写していく小津安二郎の執念とは、一体なんだったのだろう。




一方、軍務の合間に訪れた寺の住職に「無」の一字を揮毫してもらい、日本へ送っていたという。  私もお参りしたことのある、小津さんのお墓に刻まれた、一文字である。


年下の親友・山中貞雄の戦病死を知り。  
大きな作戦の前夜、明日は死ぬかもしれない、と思いつつも、戦場で拾った週刊誌の中の小説を、よい心もちで読んだ小津監督。  
毒ガス部隊の下士官として従軍していた、その人の、魂の奥の暗闇のようなものを、感じさせないではいられないエピソード群ではないだろうか。
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